| 伊藤氏はアンモニアセンサーの開発で知られる物理化学領域の研究者で、「環境計測工学」講義を担当したことを契機に地球温暖化に対する独自の疑問を検討し始めます。その過程で「地球温暖化の新局面―太陽―気候相関のミッシングリンク」(『科学』1999年8月号)を執筆、現段階での地球温暖化を巡る状況を概観した本書が形作られました。 伊藤氏は気象・気候の専門家ではないものの物理化学領域では第一線の研究者です。そうした方が地球温暖化問題に一から取り組んだことで、温暖化研究者の間では暗黙裏に無視されている太陽輻射の影響や気候シミュレーションにおけるフラックス補正といった素朴かつ科学的根拠が曖昧な点が指摘されています。また、地球温暖化と経済について名著と称されるいくつかの書籍の存在を知ることができた点は有用でした。 本書を読む限り、地球温暖化の原因はなお明確ではありませんが、日本は京都議定書を批准したために二酸化炭素の削減に取り組むことを要求されています。「正確な情報がわかる前に行動をしなければいけない状態(P. 141)」が日本の現状です。一方、アメリカでは二酸化炭素削減のシナリオ分析を経済学者が徹底的に行っています。その結果、アメリカの二酸化炭素放出の伸びについての予想が他国よりも大きいために削減コストが他の国と相対的に高くなり、米国経済に悪影響を及ぼすとされました。それが京都議定書批准という行動に結びついています。しかし、同時にアメリカの国立科学アカデミーでは地球温暖化に関する詳細な技術分析を行っており、アメリカの京都議定書からの脱退が独自の状況判断によることを裏付けています。 予測や要因について正確な情報が明らかでなく、人々の関心が強い状況下で対策が要求される地球温暖化問題の困難さを知る入門書としては幅広い視点を持った良書です。 |