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 タイム・マシン (創元SF文庫―ウェルズSF傑作集)
タイム・マシン (創元SF文庫―ウェルズSF傑作集)
 
¥ 546
発売日:1996-04
東京創元社
オススメ度:
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■  アナザー・ワールドへの憧れ センス・オブ・ワンダーの輝き
 名探偵シャーロック・ホームズが活躍していたちょうどその頃、同じ英国で、SFの始祖であり巨人とも言うべきハーバート・ジョージ・ウェルズ(1866-1946)が書き記した傑作選。創元SF文庫のこの第1集には、「塀についたドア」(1906)、「奇跡をおこせる男」(1898)、「ダイヤモンド製造家」(1894)、「イーピヨルニスの島」(1894)、「水晶の卵」(1897)の五つの短篇と、中篇「タイム・マシン」(1895)が収録されています。
 未知の世界、アナザー・ワールドへの憧れが、話の中で結晶化している雰囲気がいいですね。別世界へのロマンと、センス・オブ・ワンダーの輝きを感じた作品集。なかでも、次の三つの短篇に心惹かれました。
◎白い塀と緑のドアの向こうに魔法の園が広がっているという、一種のユートピア譚「塀についたドア」。
◎奇跡が次第にエスカレートし、ビッグ・バンのように爆発する展開が秀逸な「奇跡をおこせる男」。
◎ロンドンのとある古物店に置かれた水晶球の不思議を綴った「水晶の卵」。
 「塀についたドア」が気に入った方には、同じ魔法を効かせた短篇で、ジャック・フィニィの「失踪人名簿」(『レベル3』所収)がおすすめ。
 また、1959年製作、ジョージ・パル監督の映画『タイム・マシン』もいいですね。原作の味わいが、とてもよく生きているんだな。一見の価値ありです。

■  その花を知っています
タイム・マシンと聞いて「時間機械ってなんだろう」と訊くお人は少ないんじゃないかと思います。それは船や車の形であるかもしれないし、巨大なビルのようなものかもしれないし、シャツのポケットから取り出せるぐらいの小さなものかもしれないのですが。とにかく時間転位装置、過去や未来の時間にとんでゆける機械を想像するお人が圧倒的多数でしょう。

でもH・G・ウェルズがこの「タイム・マシン」を世に発表したのがもう百年も前だと聞くと、ちょっと愕然としませんか。そうなんです、これはものすごい古典なんですね。

この本におさめられている短編と中編はどれも独立しています。表題になっている「タイム・マシン」は一番の見所ですが、H・G・ウェルズが火星人襲来を描いた『宇宙戦争』を思うと、「水晶の卵」という火星関係の短編も趣き深いものがあります。

この物語の語り手は、タイム・トラヴェラー。名もあかされない謎の青年です。そしてこの青年こそが、その謎の装置を作りあげるのです。そして彼ははるか先の未来世界へゆきます。そこではエロイという美しい小人たちとモーロックという醜い地下人種が分かれて暮らしていて、彼はエロイの一少女と親しくなるのですが……。

百年前に生み出された物語とは思えないおもしろさ。いえ、百年たっても、こうして異国の書肆でも気軽に買えるような形態で残っていること自体が、この物語の不思議かもしれません。

ラストに登場する枯れた白い花がなんとも印象的です。それは現代の私たちにとっては未知であるはずの花です。でもこんな可憐な花を、だれもがいつか目にしたかもしれません。ずっと昔、自らの中に。


 
 
 
 
  
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