| 明治から昭和20年代にかけてクラフト・エヴィング商會という販売業者が日本にありました。この商會が扱っていた商品は次のような奇妙極まりないものばかりです。 ・地球の重力の強弱を測る「硝子蝙蝠」(神戸銀醒傳信社製)。 ・闇夜を照らすのではなく日中のまぶしさを紛らすために闇を生み出す「アストロ燈」(東洋電氣株式會社製)。 ・かつてその場にあった建物の在りし日の姿を浮かび上がらせてくれる「時間幻燈機」(舶来通信株式會社製)。 残念ながらこうした物品のほとんどはことごとく散逸し、平成の世に伝わるものは全くありません。ですが扱っていた品々のパッケージや取扱説明書などはかろうじて残っています。本書は各商品の名残を留めるそうしたトリセツなどを掲載し、往時をしのぼうという写真集です。 とはいうものの、この「どこかにいってしまったものたち」はもちろん架空の物品を扱っていて、そもそもどこにも存在しなかったものなのです。二人の女性アーティストがある方法を使って拵えたものです。 使用した古風な文字群は、懐かしい日本の空気を今に伝えるものです。古臭い、という否定的な思いを抱くことはなく、どことなく惜しまれる気持ちが心にわきたちます。 私が生まれる前に亡くなっていた父方の祖父は、遺品として数多くのSPレコードを残していました。大きさはLPレコードと同じですが、78回転機能をもったレコード・プレイヤーでなければ聞けないという代物です。 今はどこかにいってしまいましたが、小学校低学年の頃にこれらSPレコードを見つめた記憶があります。円盤中央部やくすんだ色の包み袋に書かれた文字が、普段みかけるものとは大きく異なり、祖父の生きた時代の空気が刻み込まれているような気がしていくら眺めていても飽きなかったことを良く覚えています。 そんな思い出を蘇らせてくれる一冊でした。 |