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甘粕正彦 乱心の曠野 
責任 ラバウルの将軍今村均 (ちくま文庫) 
満州裏史―甘粕正彦と岸信介が背負ったもの 
幻のキネマ満映 甘粕正彦と活動屋群像 (平凡社ライブラリー) 
阿片王―満州の夜と霧 (新潮文庫) 

 
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 甘粕大尉 (ちくま文庫)
甘粕大尉 (ちくま文庫)
 
¥ 882
発売日:2005-02-09
筑摩書房
オススメ度:
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■  オリジナルと文庫の違い
満洲の歴史を知る上で、甘粕正彦を避けては全く語れませんし、表面の史実だけでなく、日中戦争の裏面史を知る上でも、彼の闇の行動を知ることによって旧日本軍の狙いが見えてきます。それだけ重要な人物ですし、闇の部分が多いが故に神格化され、恐れ崇め奉られたのだと理解しています。

近代史の知られざる一面に対して多くの関心を払ってきた角田房子の渾身の著作です。特に「満洲国のボス」ではなく、「忠君愛国の士」であり、天皇への凄まじいばかりの畏敬の念を抱いた日本人の典型として甘粕の姿は実に新鮮に映りました。本書に書かれているように「天皇と一体である国家に身命を捧げる」という目標を生きがいとした甘粕はある種のストイズムを感じさせるものでした。

ただ、惜しむらくは、この文庫には写真が1枚しかありませんが、1975年刊行のオリジナルには、9ページに渡って17点の写真が掲載されていました。特に大正12年10月8日の軍法会議の写真や、自決した彼の入棺直前の写真など非常に興味を覚える写真まではずされているのは大変惜しいと感じました。
本書が、当時の資料をおいながら丹念に人間像を浮かび上がらせようと努力した労作であるだけに、その内容の理解を大いに助けるであろう写真の存在は大きく、それがないのは画龍点睛を欠くと思われます。

とはいえ、執筆から30数年経った今でも、甘粕を語る上で本書の存在は外せないもので、この労作を読むことで、知られざる日本近代史の奥底を理解できるように感じました。

■  虚々実々の人物像
映画「ラストエンペラー」で坂本龍一が演じていた人物は、実物の甘粕正彦氏とは全く違うことがよく分かる本です。甘粕氏が「大杉栄を殺害したのか否か」という謎は解けぬままなのに、この事件が彼のその後の人生観を決定付け、そして陸軍の甘粕氏に対する負い目が、満州国における彼の暗躍・権力へと繋がっていく過程が、よく分かりました。合理主義者であるのに絶対的天皇崇拝を捨てなかった二律背反、畏怖されながらもいつしか人を惹き付ける不思議な存在感が、彼と接した人々の証言などから検証されていきます。事件後の甘粕氏のヨーロッパ生活、満映の内情など、多角的に甘粕氏について言及した労作です。文庫化は嬉しいですが、単行本に掲載されていた満映時代の写真があれば・・・とは思います。

■  軍人ならざる軍人甘粕
甘粕は大杉事件により、30過ぎで早々に軍人としてのキャリアを捨て、その後の20数年の軍外での人生、特に満州での約15年の暗躍が、甘粕の名を歴史に刻むことになる。
それにも関わらず、本書のタイトルは「甘粕正彦」ではなく「甘粕大尉」である。
それには、2点意義がある。
まずは、甘粕が大尉として関わった大杉事件が、甘粕の人生の出発点であったということ。
甘粕が大杉事件の下手人か否かは、軍法会議での多くの疑問を指摘しつつも本書では結局結論づけられていないが、事件の全責任を取り、その後の人生のあらゆる場面で大杉殺害犯としての誹りを甘受した。
そのことが甘粕の評価を高め、同時に甘粕を近寄りがたい男にもした。

そして次に、皮肉なことに早々に軍人の道を外れた甘粕こそが、昭和期を通じて、陸軍の最も理想的な軍人の一人であったという事実。
強い愛国心と天皇への忠誠心、規律を遵守する強い意志、目的達成のために慣習に囚われない合理的思考、組織を統率するための強いリーダーシップと部下へ優しさや人情味、人脈作りと情報収集能力、どれをとっても並の軍人には及ばない実力を、甘粕は満州で発揮した。

本書は甘粕の裏面(諜報活動や阿片取引など)について詳しくは述べてはいないが、甘粕が表社会でも裏社会でも人望を得た背景にある複雑な人間的魅力を、著者は丹念に説明している。
同時に、表紙の写真が、澄み切った強い意思と冷酷さ、大いなる諦念が共存している甘粕の魅力を物語っている。


 
 
 
 
  
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