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 虜人日記 (ちくま学芸文庫)
虜人日記 (ちくま学芸文庫)
 
¥ 1,365
発売日:2004-11-11
筑摩書房
オススメ度:
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■  南の島の戦争
 著者は醸造技術者で、第二次大戦中にはフィリピンで軍事用アルコールの製造に携わった。本書は、まだ日本が勝っていた頃、負け戦になりジャングルの中を逃げまどった頃、終戦後にアメリカ軍の捕虜として暮らした頃の三部構成で書かれている。
 ずっと付けていたノートをもとに、収容所できちんとした文章にまとめたものらしい。戦争の現場での記録であり貴重。
 内容は、戦争の恐怖、ジャングルでの食糧確保の大変さ、将校たちへの憤りが中心になっている。本人による絵も多数が納められている。文章も絵も意外に陰惨ではないので、読みやすい。
 面白いのは、偉い人間とはどういう人なのか、という問題があらわれていること。負け戦あるいは窮状にあっても、部下や他人の面倒をきちんと見られる人間が、結局は偉いのだということが書かれている。
 また、著者は日本犬保存会の主要メンバーでもあったことから、ところどころにイヌの話が出て来るのが興味深い。

■  ぎりぎりの状態での自分の態度を想像すること
この日記の史実資料としての意義については、山本七平氏「日本はなぜ敗れるのか - 敗因21ケ条」に詳しいですが、当時の軍部の情報を多く持つ立場でありながら、民間人(軍属)として比較的利害関係のないポジションで冷静な観察ができている、といった点は確かに一読すれば窺い知ることができます。

本書の意義に限らず、その背景、分析などについては、「日本はなぜ敗れるのか」に余りに的確で詳しく考察されています。一方、個人的に感じたことは、極限状態での人間の実態はこうも惨めでむごいものか、ということでした。本書でも山口大佐という立派な将校の話(比人からの信用も絶大、信念の強い人であり、馬鹿な閣下の命令には決して服さず敬礼もしなかったという)が紹介されていますが、こうした人は本当に稀だったのでしょう。確かに生死を賭け、「最後の食料を他人に差し出せるか」といったぎりぎりの問いに、明確に答えられる自信は少なくとも今の僕にはありません。本書の語り口は淡々としているだけ、人間の「弱さ」というものをつくづく考えさせられます。

山本氏も書いていますが、こうした極限状態を生み出さない、といった努力がまず求められることであり、極限に近づくにつれ残された選択肢は狭く、恐ろしく辛いものになってしまう、ということを、本書を読むことによって痛感 = 追体験します。また、ぎりぎりの状態での自分の態度というものを想像し、その緊張感を普段の生活の中で意識することは、間違いなく通常の自分の生活態度や人間関係を見つめ直すひとつの視点になります。


■  戦争や収容所の実態、極限状況下での日本人を的確に記す
ジャーナリストがジャーナリスティックに走りすぎ、事実を歪めた報道を行った例は枚挙にいとまがない。それどころか、単なる伝聞をいかにも自分の目で見たかのような記事に仕上げたり、全くの虚構と言う例もある。それらとは反対に、本書はジャーナリスティックにならず、見たことを感じたことをありのままに書き連ねている。本書で一番評価されるべき点はここにあると思う。

ここに書かれていることは一軍属が体験したことに過ぎないが、先入観にとらわれたジャーナリストが書いた記事より、戦争や収容所の実態、極限状況下での日本人と言ったものを的確に捉えていると思う。


■  奇跡の観察記録。悲惨の渦中で科学者の目は何を見たのか
終戦間際、著者はブタノール製造を任務とする文官としてフィリピンへ赴く。
そこで日本軍の敗退、ジャングルでの彷徨、そして終戦。投降とその後の捕虜
収容所での生活を体験する。事態のただ中に身を置きつつも、科学者としての
冷静な観察がなされ、余計な修飾を廃した稀有な記録が残されることになった。
本書を世間に知らしめた山本七平氏はその価値をこう紹介している。
「戦争と軍隊に密接してその渦中にありながら、冷静な批判的な目で、しかも
少しもジャーナリスティックにならず、すべてを淡々と簡潔、的確に記してい
る。これが、本書のもつ最高の価値であり、おそらく唯一無二の記録であろう
と思われる所以である。」
また山本氏は解説のなかで、投降後の捕虜収容所で、ジャングルを生き抜いた
屈強な男達が、いともた易く一握りの暴力団的グループの配下に組み込まれ、
コントロールされていく様を記した部分にふれ、現在の問題としてもなお生き
ているという。確かにその通りだろう。国民必読の書。

■  待望の復刊、深い感銘
山本七平「日本はなぜ敗れるのか」を読んで以来、そのベースと
なった本書をぜひ読んでみたかったが、このたび復刊が実現し
期待を持って読んでみた。
 
本書は著者がフィリピン戦線で体験した日本軍の行動が率直に
語られている。また日本軍に従って戦った朝鮮人、台湾人、
フィリピン人のことも語られている。もちろん勝者の米軍に
ついてもだ。個々の話はどれも心を打つ。食糧が尽きた
日本兵が友軍同士殺し合ってその肉を食う話、ウジの涌いた
母親の死体にいつまでも取りすがっている幼児の話、
栄養失調のため温泉に入ったとたん心臓麻痺で死んだ兵士の
白骨が累々と温泉のなかに沈んでいた話などフィリピン
戦線はここまで悲惨だったのかと改めて思い知らされた。

さらに捕虜収容所での数々の体験と見聞が著者の人間観察を
さらに深くする。収容所では戦場以上に人間の醜い面が露呈する。
著者は戦場と捕虜収容所での体験から人間とは何か、
日本人とは何か、そして大東亜戦争の敗因(敗因二十一箇条)は
何かを冷静に考え、それを数冊の手帳に記し、骨壺に隠して
日本に持ち帰る。

敗因二十一箇条のうち、日本の不合理性、米国の合理性、
精神的に弱かった、克己心の欠如、反省力なきこと、
個人としての修養をしていないこと、独りよがりで同情心が
ないこと、日本文化の確立なきため、日本文化に普遍性なき
ため、などは今日の日本の姿であり60年前と少しも
変わっていない。

本書は会田雄次「アーロン収容所」と同等あるいはそれ以上の
地位を占めるべきと言っても過言ではない。
本書は大東亜戦争を日本によるアジア侵略と見る人にも
日本によるアジア解放と見る人にも、またそれ以外の人にも
お薦めの書である。


 
 
 
 
  
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