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理念を越えて |
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| 社会保障についてのいくつかの理念を実際の政策として提案しようとしている著者の姿勢には本当に共感できる。私たちが抑えておかなければならない統計的事実も数多く含まれてい
る。その中で、実は私が一番に共感を覚えたのは、日本人のコミュニケーションの特殊なあり方を著者が指摘しているところだ。”稲作の遺伝子”とよぶ私たちの関係のとり方を変化させることが、新しい社会のあり方を考えていく上で必要だとする。
ただ、こうしたやや理念的なことと、日本の社会保障の問題点という社会問題がうまくリンクしているかというと、すこし疑問をいだかざるおえない。
でも、このあたりがこの著作の面白さなのかもしれないし、ややごった煮にみえるのもそうした困難な課題に挑もうという著者の意気込みの表れなのかも。。。 |
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具体的かつ総合的な対案 |
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| 本書は、1961年に生まれ、厚生省に勤務した後、社会保障やケア等に関する幅広い研究を行っている著者が、2006年に刊行した、小泉改革に対するトータルな対案である(書名の定義は7頁を参照)。戦後日本は、保守主義と成長志向により特徴づけられ、会社と家族が国家による(公共事業を除けば)貧弱な福祉の肩代わりをしてきたが、1980年代前後から、成熟社会化による社会的目標の喪失、「ムラ社会」の単位の縮小による個人主義化が顕在化し、従来の制度の機能不全が目立ってきた。この現状を踏まえて、著者は後期子どもへの社会保障(高等教育やチャレンジの機会の保障)と前期高齢者の社会的活用、公共事業型社会保障から医療・福祉型社会保障への転換、社会保険と基礎年金が折衷された現行制度から、厚めの基礎年金を税によって一律に保障し報酬比例部分は民営化する年金制度への転換、慢性疾患等への疾病構造の変化に伴う心理的ケアの重視や政策決定への市民参加の拡大、失業保障とワークシェアリングの推進、資産レベルの再分配などの事前的分配の強化、社会保障財源としての環境税の導入等々を提唱し、個人ベースの公共意識と共同体的な一体意識を均衡させ、グローバル、リージョナル、ナショナル、ローカルな各レベルでの対策とその相互調整を行い、環境主義と結びついた社会民主主義を、追求すべき政策として提示する。以上が本書のあらましであり、やや楽観的に思えなくもないが、データをもとに平易に具体的かつ総合的な対案を示した本であり、ギデンズ『第三の道』の議論と関連する記述も多い。賛否は具体的な論点ごとに検討すべきだろうが、一読の価値はある。
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得かどうかはわからない |
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| この本の長所
現在の自由民主党政権が進めている、低福祉・低負担の対立軸になりうる構想を提示できているところ。今後は少子化もあるが、生産性の向上などもあり、労働力過剰になるのはやむを得ず、若年者の失業も恒常化しよう。そこで、若年者向けの基礎年金などのアイデアを出している。その他は本書をお読みください。なお、財源も提示できているが、私はそれが妥当かは確認していない。
この本の短所
この本の提案が得になるかは考える必要があろう(得でないと、読者の皆様には採用しにくいだろう)。消費税に比重を移し、所得税の比重を減らすことが得なのか(方向性はこれしかないのだろうが)、元若年者にとって納得しうるか、など。
結論―長所星5つ、短所で星1つ減らして、星4つ。 |
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第3章が残念 |
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| 全体的にはいい本だと思うのだが、第3章の教育論・若者基礎年金論の部分の議論が荒すぎる。
たとえば、戦後日本の教育学では「教育の機会均等」や「学習権の保障」という枠組みで、社会的不平等の問題に教育の分野からどうかかわるかという議論を続けてきた経過がある。また、教育福祉論という形で、教育と福祉、社会保障との関係を考察しようという領域もある。ところが、こうした研究には著者はほとんど触れずに(しかも、教育学関係の本は、巻末の参考文献を見る限り1冊だけ)、日本には教育の持つ「保障」機能に関する議論が全くなかったかのようなことを、同書第3章では述べている。
また、第3章で著者は若者(=著者のいう「後期子ども」)期への社会保障を論じているのだが、その意義は否定しないものの、その若者期以前の子ども期において、特に家庭間の経済格差などが生み出す社会的平等の問題については、ここでは何も議論がない。しかし、教育学や社会学の領域では、その子ども期の格差問題についての議論もある。
こうしたことから考えると、他の章の議論はまだいいとして、やはり第3章での著者の議論の荒さが目立つのである。 |
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学術書というよりはむしろ |
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| 政策提言の書といえると思います。
筆者の『定常型社会』には深い感銘を受けましたが、この本は、そこからの新たな発展は、少なくとも個人的には感じられず、理論的には同じ話という印象です。この本の違いは、定常型社会を実現するための具体案を提示しているところでしょう。「若者基礎年金」などはその最たる例です。
この本でなるほどと思ったのは、日本の社会保障の特異性?でしょうか。日本人にとっては社会保障といえば老人のものと考えられがちですが、実は生まれてから死ぬまでが社会保障のはにであるという、当たり前の事実に気付かされるとともに、老人以外の社会保障がきわめて脆弱である日本の実態が良く理解できると思います。今日の格差社会を考える上でも、本書は貴重な視点を提供してくれると思います。 |