著者は京大霊長類学の正統を継ぐゴリラ観察の大家. ヒトの家族のあり方,特に父親について霊長類学的に説明しようとするもの.しかしはっきり言って現代的な行動生態学からかなりはなれたスタイルになっており,データの提示もなく,説明が独善的で強制説得力に非常に乏しい.一般的な解釈を示していないのも気になる.本人はすべてを承知の上であえて今西学派としてこの独善的なスタイルを選んでいるのかもしれないが,一般の読者には逆に誤解か幻滅を与えてしまうのではないだろうか. 特にいわゆる至近因と究極因,さらに意識的な行動レベルの説明がごちゃごちゃになっているのは問題であろう.たとえば「オトコによる子殺しを防ぐためにオスメスの性差を縮小させてコンフリクトを防いでいる」等!の記述にそれが顕著である.(子殺しを防ぐことは倫理的に価値があるので誰かが意識的に防ぐかのような記述だがそういう意味なのか,それは文化敵に説明したいということなのか,それとも進化適応なのか,誰かの繁殖成功に役立つのかそれは誰の繁殖成功なのか,プレーヤー間にコンフリクトがあるのではないのか,などなどについて非常にあいまい)今西先生の与えた負の影響の大きさが垣間見える. ただし著者の霊長類観察の能力経験はやはり一級品である.コンパクトな書物にさまざまな霊長類のいろいろな社会構造,行動が要領よく描かれており,この部分は買える. |