| 橋本氏は本書の中で「難しい内容の話を簡単な言葉だけで説明することは困難である」というようなことを書いているが、彼はこの離れ業を見事にやってのけてしまっている。多少なりとも活字に親しんでいる人であれば、本書を読みとおすのにさほど時間はかかるまい。それぐらい、橋本氏の文章は読みやすい。これは、書いていることへの理解の深さと表現能力の高さが余程卓越したものでなければとてもできない芸当だ。 本書では日本語の変遷というテーマを主軸に幾つかの古典作品を紹介するような形式をとっているが、特に私が新鮮に感じたのは「徒然草」の前半が孤独な青年時代を過ごした兼好の筆によるという説と、「金塊和歌集」の作者・源実朝が「万葉ぶり」の男性的歌人というよりは現代的「オタク青年」であったという説だ。とりわけ実朝の歌は以前から好きであり、橋本氏の指摘を受けてよりしっくりと理解出来た部分が多い。 ただ、橋本氏が言うように、古典に親しむためには結局「慣れる」ことが肝要なのであって、本書を読んだからといって古語をすらすら読めるようになるわけではない。しかし、一度「面白いものだ」ということさえわかれば、1000年前に書かれていようと所詮は日本語、読めないことはないのである。橋本氏が伝えたいのはそこなのだろう。 |