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 鉄を削る―町工場の技術 (ちくま文庫)
鉄を削る―町工場の技術 (ちくま文庫)
 
¥ 567
発売日:2000-08
筑摩書房
オススメ度:
通常2〜4週間以内に発送
 


 


■  現場から見た日本の製造技術力の凋落
かつて旋盤工は自ら工夫したバイト(切削用刃物)を作って鉄を削っていたが、大規模企業から始まった合理化の波が町工場にも押し寄せ手造りバイトはスローアウェイチップ(刃先交換型刃物)に置き換えられた。このスローアウェイチップ黎明期のラインナップ拡充は旋盤工が工夫したバイトが見本となった。現在では自らバイトを作る旋盤工は絶滅しスローアウェイチップのラインナップから選んで使う様になった。しかし今スローアウェイチップの拡充ペースは伸び悩んでいると言う。旋盤工が「造る人」から「使う人」に変わり、バイトへの新たな要求が出ないのだそうだ。80歳を超えて文庫本出版当時も旋盤工として鉄を削る筆者は「選んで使うところに進歩は無い、造るところに進歩が生まれる」と言い切る。また「もっと怖いのは、選べるバイトで削れる物しか作らなくなる事」とも言う。「日本の生産技術は今なお高い」との論調は多いが人を機械の一部として扱う効率最優先の現場で起きている変化は日本の製造技術力にも大きな影響を与えている可能性が見出される。他にも現場でのエピソードから現在の製造業の現況を見通す見識の高さ、広さは旋盤工を極めた筆者ならでは。色々な示唆を得られる内容は下手な評論家の本や教科書とは比べ物にならない。

■  ものを見る眼について考える
 何年か前に、ある講演会で著者の話を聞いたことがある。
 座っているより立っている方が楽だから、と、立ったまま話をしてくれた。
 話すことすべてに経験の裏付けがあり、興味深く、説得力があった。

 現場で旋盤を使っているような職人の中から一千万プレーヤーを出すのが夢だと言っていた。製品化にあたって重要な部分を支えているのに、日があたらないのだ。
 その後、やはり京浜工業地区で会社を経営している人の話を聞いたが、管理職手当と合わせて一千万を越える人は出ているが、現場の仕事だけでは難しい、と言っていた。

 この本が書かれたのは一九八五年。もう十五年以上前のことだが、おそらく、書かれていることは今でも当てはまることばかりだろう。

 原発で事故があったときに、ステンレスで作るべき製品が銅合金で作られいたのが原因だとわかった。それを聞いた、著者の同僚は、「ひとめ見ればわかりそうなものじゃねえか」といぶかしがる。「自分の眼で、金属の光沢や色あいでみわけることもできずに、貼ってあるラベルを信用したことが、彼にはむしろ不思議だった。」(p18)という。

 ものを見る眼が失われているのだ。
 現代社会に警鐘を鳴らす本でもある。


■  人間健在・スペック無限大
旋盤工は地味。旋盤工は暗い。旋盤工は所詮旋盤工。
「工学」を志す若者にさえそうした認識があるという。
しかし本書を読めば、そんな浅薄なイメージは音を立てて崩壊する。
寡黙な旋盤工の発想は縦横かつ無尽なこと極まりない。
そこには経験と知識が智恵にまで昇華した
もの作りの本質が形となって現れている。

誰も考えつかなかった工具を作って平然と仕事をこなす親父がいる。
金属の種類を味覚で判別する親父がいる。
その想像を超えた熟練ぶりにはただ驚くばかりだ。

著者は50年のキャリアを持つベテランの旋盤工である。
旋盤工に多弁な人は少なく、自分の技術も明け透けには語らない。
よって旋盤工自らが筆を執り、もの作りに力を注ぐ人々の
様々な世界を描いた本書は貴重!!である。
心温まるエピソードが多い中でも、悲しいかな、
実践家たる現場の人々と机上の理論家との
埋めがたい隔たりを感じさせる話もあった。
工作機械の働きを知れば
本書をより一層楽しむことができるだろう。


 
 
 
 
  
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