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 YASUJI東京 (ちくま文庫)
YASUJI東京 (ちくま文庫)
 
¥ 567
発売日:2000-03
筑摩書房
オススメ度:
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■  百物語みたいです。
江戸期を扱う作家は決して少なくはありませんが、それらの作家と、杉浦日向子は、微妙に、ある意味、まるで違うような気がします。彼女はただ江戸期の空気感が好きなんだろう。ほとんど肌の感覚で、「悪くない。」と感じていて、だから、自らの周囲を江戸の空気に染め上げる。それを他人様に押し付けようなんてこれっぽっちも思ってない。思ってないにも係わらず、魅惑されてしまう者は、ものの見事に魅惑させられてしまう。ただ、この作品は非常に奇妙な作品です。杉浦日向子が、井上安治という明治初期の名も知れないような画家の絵に出逢い、まるで匂いを嗅ぐようにその絵を凝視している。この空虚感。これが、つい昨日までは265年も続いた江戸だったはずなのに、もう跡形も無くその江戸が無くなってしまった・・・ 光景なのだろうか。・・・ ただ、ぽつねんと立ち尽くしてしまっているようなその感覚。

■  素の東京
「安治はすっぽり抜け落ちている。。。」 
「安治は目玉と手だけだ。。。。思い入れがない。。。意味の介入を拒んでいるかのようだ。。。(中略)安治の網膜に映った風景。たしかにこれは絵ではない。ましてや写真でもない。」

芸術家と職人の違いはなんだろう?それは、画家と絵師との違いに通じる。そして、安治こそは、明らかに後者である。(そして杉浦氏その人も)

本書は、単なる伝記ではない。安治という夭折の(少なくとも私にとっては)無名の絵師の絵を追いつつ、その作風をそのほかの同時代の絵師との比較をからめながら、再評価していく。そして、それらの絵から安治という人物を浮き上がらせてゆく。こういうときの杉浦氏の視点は、斬新で、それでいて、とても温かい。

杉浦作品の中では珍しく、そこには「江戸」はない。そこにあるのはまがいのない「東京」だ。安治は幕末の「東京」を描いた。淡々とした「東京」を描いた。そこには派手さはない。花もハレもない。にもかかわらず、安治に惹かれてゆく現代っこのカップルの目と口とを借りながら、安治の作画姿勢を浮かびあがらせてゆく過程は絶妙だ。


 
 
 
 
  
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