|
|---|
| ■  |
江村氏著の「ハプスブルク家」または同じ著者による「神聖ローマ帝国」を先に読んでおくとよいでしょう。 |
|
|---|
| 30年戦争に関する日本語による一般歴史ファン向けの本を私は寡聞にして他に知らないから、本書の価値は依然として高いと思う。作者は近代の序章としての戦争であったという観点に立つ。意味するところは、宗教対立とハプスブルク家などの自分が帝国になって単一の秩序・正義を打ち立てんとする普遍主義とが結びついた正戦がいつ果てるともしれない消耗戦しかもたらさないという本戦争の結末から、多数の秩序・正義の並存を認めるシステムを認め、これ以降欧州では戦争は限定戦に合理化され、「宗教のドグマから逃れ」、領主が集合離散を繰り返す非常備軍中心の戦争から、常備軍を維持する徴税制度を備えた国家間の戦争に移行したということ。佐藤賢一氏著「英仏百年戦争」を読んだ者としては、英仏に遅れて他の欧州でやっと国民意識が芽生える契機が訪れたのだなという感想を持った。(もっとも、独・伊を統一する国民国家の成立はもっと後。本戦争はそのドイツからオーストリアが外れる遠因になった。)それにしても、日本の応仁の乱の如く何と錯綜した人物・領邦間の関係であることか。本書をよく理解するためには同じ新書の江村洋氏著「ハプスブルク家」と本書と同じ著者の「神聖ローマ帝国」を事前に読み、同帝国のかたちとハプスブルク家の関わり、長い両者の歴史での三十年戦争の位置づけ及び前後を含めた概略に親しんでおくことを薦める。いきなり本書を読んでも、普遍主義・帝国理念等で始まる第1章でつまずく人が多いのでは?第2章で実際の戦争の展開の記述に入ってからは、傭兵隊長ヴァレンシュタインやスウェーデン王グスタフ・アドルフ等歴史を飾る一級の人物たちの活躍やエピソードに魅了される。しかし、これだけ複雑な経過を辿り登場人物の多い戦争なのだから、もっと地図が欲しいし、系図・年表・索引を付けて欲しかった。最後に、いつもながら戦争の惨禍には粛然とする。 |
|
|---|
| ■  |
読みにくい |
|
|---|
| 「傭兵の二千年史」でも感じたが、この著者の本は評者にはあまり読みやすくない。その原因として、大量の固有名詞が殆ど何の説明も無いままに次々と現れること、登場する人物や集団の間の利害関係、権力関係の説明も最低限で、目が字を追う速度ではなかなか腑に落ち無いこと(しばしば読書を中断してじっくりとパズルを解くように検討しなければならない)が挙げられる。
大学の教室で、自分の世界に入り込んで喋りまくる教員を呆然と見つめる学生の気分である。
加えて、著者が歴史学ではなく文学畑の人間の為か、歴史の展開してゆくプロセスの因果関係の解釈が非常に大雑把かつ断定的で、歴史学者が自らの専門テーマについて論じる際のような慎重さや丁寧さがみじんも感じられないということも、この著者の論述への信頼感を失わせている。
結論として言えば、この著者の本は最初に手に取るべきものではなく、まずは本職の歴史学者による通史や概説書を当たった方が良い。回り道に思えても、そちらの方が結局は近道なのではないかという思いを強くした。 |
|
|---|
| ■  |
帝国理念の蹉跌と近代国家像の登場 |
|
|---|
| 帝国やフランスをはじめとする大国が挙って参戦し、中欧全域を阿鼻叫喚と荒廃の巷と化した三十年戦争。ヴァレンシュタインやグスタフ・アドルフ、そしてリシュリューなど、当時の名に負う梟雄たちが死闘と権謀術数の限りを尽くした舞台こそ、この17世紀の欧州大戦に他なりません。
もともと宗教的熱情の迸りに端を発した紛争ですが、関係各国間の複雑な利害の絡まり合いの中、いつしか国際関係の現実に根差した「近代的」戦争へと変容を遂げていき、ウェストファリアで講和がなされた頃には、欧州におけるパワー・ゲームのルールは全く新しいものに変化し、また、各国の統治システムも面目を一新することとなりました。
さて、本書は、主としてハプスブルグ家側からこの戦争を概観し、その背景と経過を紹介するとともに、戦争の過程における国際関係と国家システムの変容を分かり易く説き明かそうとするものです。
本書の中で筆者は、この戦争の基本的な性格に関して、カール5世以来の「帝国的」普遍主義と地域的個別主義との相克として捉え、各国・諸権力側の現実的な利害打算の中、中世的理念が最終的蹉跌を来たす過程を描き出そうとしています。
三十年戦争は、その後の国際関係の根本的方向性を規定する契機となった極めて重要な事象ですが、我が国では一般向け概説書の類は少ないようです。そうした中、本書は、平易な言葉を用いつつもポイントを押さえた記述振りとなっており、たいへん貴重な一冊だと思います。
なお、著者はもともと文学畑出身の方であり、その語り口には独特の味わいを感じます。 |
|
|---|
| ■  |
宗教対立から国家対立の時代へ |
|
|---|
| 三十年戦争は十六世紀のルターの宗教改革で西欧がカトリックとプロテスタントの両陣営に分裂した状態を受けて、十七世紀にハプスブルク家が再びカトリックの盟主としてヨーロッパに覇を唱えることから発した戦争である。初期の宗教地図を巡る戦いから、次第に国家的利害の角逐に性格を変えていくのがこの戦争の特徴である。例えば最後に参戦したフランスはカトリックであるが、敵国内のプロテスタントに援助を与えたり、異教徒オスマン帝国と結んだり、宗教にこだわらない外交を展開している。ウェストファリア体制では「主権国家」という概念と近代の国際法秩序が生まれた。これはやがて欧州のみならず、植民地化していくアジア、アフリカなどの他の地域にも適応され、現代に到るものである。ヴァレンシュタイン、グスタフ・アドルフなどの英雄が活躍する時期であるが、ヨーロッパがこの戦争を契機として近代の道を歩んでいくありさまも見逃せないものがある。 |
|
|---|
| ■  |
歴史文学的な味わいをもった三十年戦争史 |
|
|---|
| 17世紀に欧州を広範囲にわたって巻き込んだ三十年戦争を概観する講談社現代新書。日本人には世界史の教科書で出遭う程度にしかなじみのないこの戦争を、C.V.ウェッジウッドの「三十年戦争」をタネ本にして描いた(あとがきより)一冊とのことです。 権謀術数渦巻く近世戦争の中で、神聖ローマ帝国皇帝フェルディナント2世、その傭兵隊長ヴァレンシュタイン、フランス宰相リシュリューといった主役陣が入れ替わり立ち代り歴史の表舞台へ現れては消えていきます。著者が本書で用いる文体は学術書のそれというよりは歴史文学のそれであり、品位溢れるものです。歴史の壮大な物語が私たち読者に与えてくれるものと同じ昂揚感を本書で味わいました。 殊に印象的なのはスウェーデンのグスタフ・アドルフ王が戦地に斃れる場面です。戦争の一方の側にとっては偉大な英雄であったグスタフ・アドルフの死を物語風に簡潔な文章で描いた箇所(128頁)は、戦争の虚しさや哀しさが立ち現れてくる描写として際立っています。 三十年戦争を終結させたウェストファリア体制が、欧州普遍主義からナショナリズムへの転換、ラテン語よりも固有言語の尊重、殲滅的戦争から限定的戦争への合理化などを推進していく歴史的転換点になっていったという最終章のまとめは大変分かりやすく、私のような歴史学の門外漢にも違和感なく受け止めることが出来ました。 |