| イギリスで社会的にのし上がるためには標準的発音を身につけることが必要であるということは、英語の発音の専門家であれば多かれ少なかれ知っていることである。そして、その標準的発音を使いこなしている人は全人口の5%程度であるということも。そもそも、音声学がイギリスを中心に発達したのは、まさにそのような社会状況があったからである。 この本は、そのような社会状況に至った歴史的経緯や現状を、様々なエピソードを主体にして明らかにしている。そして、現在イギリスの学校の多くでは、標準的発音については野放し状態であるのだが、みんなにそれを知る機会を与えるべきだということを主張している。私としては、むしろ多様性を認めるべきだという現在の世界の流れに逆らった主張をするこのような本が出てきたことに少々驚きを覚えたが、厳しい現実はそのような建前とは別に存在しているのだ、ということも事実だろう。 しかし、イギリスのような階級方言が存在せず、地域方言があってもアナウンサーのような職業につくのでない限り特にハンディにはならない日本において、この本が読まれることの意義についてはちょっと首を傾げてしまう。もちろん、イギリスそのものに関心のある人は少なくないので、そのような人々にイギリス社会の重要な一側面を知らせるという意味では、この訳書にも存在意義はあるとは思うが…。 一つ難を言えば、原著者の音声学的知識の怪しさが所々に露呈しているのが残念である。しかし、訳文は非常にこなれていて読みやすい。 |